~事例で見ていく、人生の今、これから。

1.「将来の指針」をご自身でつくっていきましょう

人生を最後まで自分らしく充実した暮らし尊厳を持ち生きていってほしいと願っています。そのためには積極的に自己決定できるように健康面を気遣っていくこと、そして同時に「将来の指針」を持つことが必要となります。心身の安定した有意義なくらしを楽しむために「将来の指針」を持つこと。それは、遺言と各種の契約によってなすことができます。

事例

定年を迎えた65歳のAさん。妻と二人暮らし。結婚して独立した二人の子供はAさんの近所で家を所有し暮らしています。若いころから水泳やマリンスポーツにたしなみ、65歳を過ぎても、たまのエクセサイズで健康を維持しています。おかげで大した病気もかかったことはなく、周囲からも「若々しい」と見られています。幸いこれからの暮らしに当面は困らない貯金と年金があり、また住居費も大きな出費はなさそうです。
 しかし、Aさんにも悩みや心配事があります。今は健康面では不安がないのですが、将来、病気や怪我、或いは認知症になって自身の力ではどうにもならなくことがあるかもしれません。また死後、残された妻の老後や、残った財産の行方はどうなるか心配になってきました。祖先のお墓のことも気掛かりです。そこでこれらのことについてM行政書士に相談。M行政書士は、Aさんに「遺言を書くこと、生前に様々な契約を結ぶことで、日々の生活の指針ができることで心配が解決します」とのアドバイスをしました。主なものを以下記していきます。

~ご自身の人生を、死後も含めてより豊かなものにしていくために~

生前死後
遺言書作成
各種契約
見守り契約
任意後見契約(判断能力低下により任意後見開始)
財産管理契約
遺言執行
死後事務委任契約

(1)遺言

生前は自分の意思で自由に財産を処分できますが、もしも万一のことがあった場合、残された家族は故人の意思を確かめることができません。故人の意思を尊重したくとも、その意思を確認する術がないのです。その時に”遺言書”が残されていたなら、ご家族は意思を確認することができ、その内容に沿った形で財産等の処分が可能となります。残された家族への思いやりとして、そして安寧を送るためにも遺言書を作成することをお勧めします。
気を付けなければならないのは遺言の方式は法律で厳格に定められています。それに反する遺言は無効となってしまいます。
家庭裁判所に持ち込まれる相続争いの多くは正式な遺言がないためであると言われています。遺言がないために、残された肉親同士が揉めてしまうようでは、天国にいる本人もやり切れず本望ではないと思います。遺言は家族と遺産を守る、そして遺産をめぐるトラブルを防ぐ最善の方法であり、遺産を家族のため、世のために生かす指針となるものです。

(2)遺言執行者とは

遺言は執行されてはじめて意味が生じます。逆に言えば、作成しただけではその内容が実現するとは限りません。法定相続分と異なる指定をする場合や相続人以外に遺産を与える場合など、遺言執行に非協力的なケースがしばしば見受けられます。そのような時に遺言執行者を指定しておけば、その遺言執行者が遺言内容を執行してくれます。
遺言執行者は相続人でも第三者でもなれますが、信頼できる行政書士などの専門家を指定しておくことが賢明です。あえて感情を排して遺言者と相続人のために粛々と執行してくれます。

2.さまざまな契約の事を知り、自身と家族を守りましょう

(1)見守り契約

見守り契約とは、任意後見(後述します)が始まるまでの間、任意後見となる人(支援者)が本人と定期的な訪問や架電などで連絡を取り合うことで、本人を見守る契約です。定期的に連絡を取ることで、本人の体調変化の気付きや心身のお悩み相談ができ、また支援者も本人の判断能力の有無などを確認することができます。
本人に家族の方がいるなど日々の状態を把握できる場合は良いのですが、一人暮らしや同居家族がご高齢の場合などに有効となります。もし見守り契約がなければ、支援が必要な状況になっても、誰にも気づかれず、不安定な状態で生活を続けなければなりません。
見守り契約は、高齢者本人と見守ってくれる人との間の契約を結ぶことで成り立ちます。契約は契約書を作成し、可能であれば公正証書の形式で結ぶことが望ましいです。

(2)財産管理委任契約

財産管理委任契約とは、本人と委任される人との間で本人の大切な財産の管理を委任する契約です。これも、公正証書で作成することが最も安心できます。
任意後見契約は本人の判断能力が低下してから開始されるに対して、財産管理委任契約は判断能力が低下していない状態でも委任することができます。判断能力が低下してしまったときの備えとして任意後見契約を、それ以前の財産管理を財産管理委任契約で支援してもらいます。

(3)任意後見契約とは

任意後見制度は本人が判断能力(契約に締結に必要な能力)の十分なうちに、公正証書により「任意後見契約」を締結し、「任意後見人」になることを受任した者(「任意後見受任者」)に対し、将来、判断能力が不十分になった場合に、その契約を発効させ、自分の選んだ任意後見人に自分の委託した後見事務を行ってもらう制度です。
任意後見は、家庭裁判所による法定後見人と異なり、任意後見人の代理権の範囲から報酬に関する事項まで、当事者間の契約により自由に定めることができます。本人が任意後見受任者に委託する事務の内容は「生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部」とされており、具体的には本人の資産や負債、収入や支出の内容を把握し、本人のために必要かつ相当な支出を計画的に行いつつ、資産を維持していく「財産管理」と本人の心情の世話や療養看護に関する「身上監護」に大別されます。
任意後見契約は本人の判断能力が不十分になり、本人、配偶者、4親等以内の親族、任意後見受任者が、本人の所在地を管轄する家庭裁判所に対して、任意後見監督人の選任の審判の申し立てを行い、家庭裁判所により任意後見監督人が選任されることにより発効されます。そして任意後見受任者は正式に任意後見人となり、後見事務を開始します。

(4)死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは亡くなった後の事務的な手続きを行ってもらう契約です。たとえば死亡したことを家族や友人への通知や、葬式を行うこと、生前の療養費の未払金を代理で精算することなどです。
特に一人暮らしの方などの孤独死などが深刻な問題となっていることから、任意後見契約や見守り契約と併せて契約されることは有意義です。もし死後事務委任契約を結んでおかなければ、死後の遺体の処理や埋葬の手続きなどが放置されてしまうこととなりかねません。任意後見契約は生前のサポートなので、任意後見契約だけでは死後の事務をサポートすることはできません。葬儀などの費用のかかることや未払い医療費の代理などは事前の死後事務委任契約を結んでおかなければ行うことはできません。
死後の手続きの準備としては遺言書がありますが、遺言は法律で定められた文書ですので、記載できる事項は法律で定められた事項のみです。もちろんそれ以外の事も記載することはできますが、法的拘束力が生じないため、遺言書に記載しただけではその内容の実現は困難となります。
死後事務委任契約は当事者間同士で結ぶ契約ですので、契約書にしておくことが望ましく、またより安心するためには公正証書で結ぶことをお勧めします。

AさんはM行政書士のアドバイスを受け、遺言書の作成や契約書の作成支援をM行政書士に依頼し、遺言執行者にM行政書士を指定し、そして見守り契約と財産管理契約も締結しました。さらに任意後見の受任者を長男としてM行政書士に契約書の作成を依頼して長男と契約。死後事務委任契約を遺言執行者であるM行政書士と行いました。
これらの一連の契約について妻も二人の子供もおおむね歓迎しているということで、家族のAさんに対する信頼は高まったようです。Aさんは、これからの人生を一層自分らしくすごすためにこれらの契約を友人など他の人にも勧めています。

3.事業を承継させるには

生涯現役と思っていても、いつかは後継に道を譲る、或るいは商売をたたむ時が来るかもしれません。突然の病気やケガ等による廃業リスクは、事業者のみならず家族にも大きな影響を与えます。後継者がいる場合も含めて、元気なうちに事業承継について考えておきましょう。

事例

神奈川県内で工場を営んでいるBさん(65歳)は、60歳を過ぎたころからこれからの行き末を考えるようになりました。子供たちは全員独立し、それぞれの家庭を持ったので、これからは夫婦二人の生活ができて、時折孫にお小遣いを与えられる程度でよいと思い、仕事量をセーブしようと考えています。これから5年先を考えると、工場をどうたたむかを悩んでいます。
セーブしたとはいえまだ得意先はあり、とはいえ子どもたちに今更継がせるわけでもなく、自分がいつまで元気に続けられるか・・・など心配が頭をよぎります。そこで事業をこれからどうしてばよいかについてM行政書士に相談しました。M行政書士はBさんから、事業が個人事業か法人かをヒアリングしたうえで、何も準備しなかった場合のリスクを説明し、事業を継続させる場合と廃業する場合とに分けてアドバイスしました。

(1)何も準備しないまま経営者が亡くなってしまったら・・・

個人事業の場合

事業の債権債務については経営者個人の債権債務ですので、(単純承認の場合)相続人が引き継ぎます。融資残高がない場合でも、売掛金の回収や費用支払い、工作機械や産業廃棄物等の処分など煩雑な残務整理を相続人が行わなければなりません。

法人の場合

事業の債権債務は法人の債権債務ですので、相続人が法人の債務を負うようなことは通常はありません。
しかし経営者が持っていた株式を相続することになりますので(単純承認の場合)、会社の清算手続きや譲渡手続きには関与が不可欠となります。
このように、個人事業の場合、法人の場合どちらでも、事業継承もしくは廃業の準備をしないで経営者が亡くなった場合、相続人の負担は多大かつ計り知れないものがあります。

(2)具体的な準備はどうすればいいのか

法人化

個人事業の場合には、事業を引き継ぐ予定の方(相続人の如何を問わず)がいる場合には、法人化するという方法があります。費用は掛かりますが、経営者個人の債権債務関係を法人の債権債務関係に移しておくことで、事業に関係しない相続人の安心が図れますし、引き継ぐ殻を役員に据え(出資の有無を問わず)、経営者の持ち株については遺言で手当てすることで、スムーズな承継を計画することができます。

個人事業化

法人の場合、とりわけ廃業を視野に入れている場合には、事業のスリム化の一環として個人事業化という方法があります。会社の清算手続きを自身で済ませておき、自身に万一のことがあっても相続人の負担は最低限の残務整理にとどめます。債務がなく機械設備などが小規模の場合は有効です。

事業承継

得意先の関係で廃業が難しい場合でも、事業の引継ぎ先があれば営業(事業)譲渡や合併(法人)の手続きを取ることができます。とりわけ法人の事業譲渡や合併の場合では、譲渡後或いは合併後に法人の役員や従業員として残ることも設計可能です。事業承継=引退以外の選択肢が作りやすいところに法人事業承継の特徴がありますが、これから法人化する場合はもとより、承継先探しと、承継手続きにはそれなりの時間と費用が必要です。

業種ごとに注意点

営業に許認可が必要な場合、相続、廃業、事業承継のいずれのケースであっても、許認可を行った所轄官庁に対する届出等の必要手続きが必要な場合があります。相続人に届け出義務等が課されている場合がありますので自身の業種が許認可を受けている場合には、どのような手続きが発生するかをあらかじめ確認しておきましょう。

個人事業主だったBさんは、M行政書士のアドバイスを受け、5年計画で廃業することにしました。知人や商工会の繋がりから得意先の引継ぎ先を探しつつ、事業規模を徐々に縮小していく予定です。M行政書士のアドバイスで得意先との引継ぎ契約書の作成準備とまた、万一の場合に備えて、遺言書の作成を依頼しました。家族に今回の経緯を話したところ、「病気やケガなどがあった場合、工場をどうしてばよいかについて不安だったけどしっかり考えてくれて安心した」と言われたとのことでした。